Kuno Palpur to get cheetah, not lions
実はこの話は7月にすでに報道されていたもので、記事にしようと思いつつ時間が経ってしまいました。
India approves plans to reintroduce cheetah
比べて読むと7月の報道はインド環境省が計画を出したというもの、今回はそれが候補地のあるマディヤプラデシュ州の了承を得たというもののようです。
チーターもまた「え、アジアにもいるの?」という動物かもしれませんが、本来の分布域は中央部を除くアフリカ全土と西アジアからインドにかけて。ライオンとよく似ています。古代エジプトやムガル帝国ではチーターを飼いならし、猟犬のように狩りに使っていました。
Wikipedia - Cheetah
なぜ危険性の動物である
しかし20世紀に入り、アジアのチーターは狩猟によるガゼルなどの草食獣の激減、直接の駆除や狩猟によってほとんどの国々で絶滅。イランの一部に100頭足らずの個体群を残すのみになってしまいました(※パキスタン、アフガニスタンにも少数生存している可能性あり)。インドでは最後に殺されたのが1947年、目撃例も1967年に途絶え、インドで最初に、そしていまのところ唯一、人間活動によって絶滅した哺乳類となりました。
このような経緯から、2000年ごろからインドにチーターを再導入しようという動きが始まっていました。
最初はイランからチーターを譲り受け、クローン個体を作って導入する予定だったようです。クローン個体の寿命の短さ、「絶滅の渦」に巻き込まれないだけの最小個体数を確保することの困難さを考えると無謀といわざるを得ませんが... 想像するにバイオテクノロジーの技術をアピールする意図もあったのでしょう。しかしこれはイランが個体の譲渡を拒否しあえなく頓挫。
なぜヒョウは、日中寝ていない
今回の計画ではチーターの全野生個体数の1/4(約3000頭)を有するナミビアや南アフリカからの導入が予定されています。
一般に、同じ種であっても遠く離れた地域の個体を導入することには遺伝子攪乱という問題があります。
しかしチーターの場合、免疫に関わる遺伝子領域の多様性が低いために血縁のない個体どうしでも皮膚移植が可能であったり、精子の奇形が他のネコ科動物と比較して非常に高かったりと、もともと遺伝的多様性が非常に低い種であることがわかっていました。チーターにボトルネック効果(過去に個体数が激減したことにより遺伝的多様性が低く保たれること)が働いたのは最終氷河期の終わり(約1万年前)であり、アフリカ東部と南部の個体群が分化し始めたのはわずか5000年前のことと推定されています。
これらの研究にはイランのチーターは含まれていないため、問題が全くないとはいえないでしょう。
しかし2桁しかいないイランのチーターは域内保全を優先すべきであり、移出するのは現実的に不可能である以上、妥当な選択ではないかと思います。
チーター@多摩動物公園
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では本来再導入するはずだったアジアライオンはどうなるのでしょうか。
ライオンは捕食者として子どもに対する最大の脅威であり、かつ大人からも獲物を奪う捕食寄生者として、明らかにチーターの生存には負の影響を与えています。
実際、チーターは白昼に狩りをすることで薄明性の他の捕食者を避けているといわれており、また現在ナミビアでチーターが増加しているのもライオンやハイエナが駆除された放牧地を利用しているためと考えられています。
以前の記事の通りライオンを渡したくないグジャラート州は、チーター再導入をライオンを諦めたとみなして好意的コメントを寄せているようです。
候補地のアセスメントを行ったNGOとしては、ライオンを諦めたわけではなく、ライオン・トラ・ヒョウ・チーターが共存する本来の生態系の復元へのステップと考えているとのことですが、チーターの定着と安定した増加がみられるまで、最低10年くらいは保留になるのではないかなと個人的には思います。
アジアライオン@上野動物園
ところでクノ野生動物保護区でチーターの主な獲物になると期待されているのはブラックバック。螺旋状の角が美しい種です。
チーター再導入には当然サファリの観光収入も期待されているでしょうから、ブラックバックを時速100kmで追いつめるチーターの姿を見に行ける日も遠くないかもしれません。
ただ、この計画は多くの懸念を無視してトップダウンで進められているようで、研究者や自然保護団体からの反対意見も多いのが実情。そうした反対意見も別の機会に紹介したいと思います。
Wikipedia - Blackbuck
参考文献・サイト
Caro,T. 1994. Cheetahs of the Serengeti Plains. University of Chicago Press.
Macdonald, D. and Loveridge, A. (eds). 2010. Biology and Conservation of Wild Felids. Oxford University Press.
Wildlife Trust of India
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